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卒業30周年特別寄稿 サッカー部 
 『18のままさ』 
                               有賀 正(B)

2012の年の瀬、伊那市駅前通りの焼肉屋に我々は集結した。

仕事の都合で来れない隆をのぞく8人だ。

数年に一度、伊那北サッカー部の同期メンバーで集まっている。
早太郎温泉の旅館で泊まり宴会をした年もあった。
フットサルで気持ちよく汗を流した後、うしおでがっつり飲んだ年も。
安曇野・烏川での嵐の中のキャンプも思い出深い。
広巳の購入したばかりのキャンピングカーが出かけて数十mでパンクしたし、
嵐でがらがらのキャンプサイトの車中ではなく、テントの中で一夜語り過ごした。



今夜は、焼肉で一杯ということなのだが、この歳になると
肉がたくさん盛られた大皿に率先して手を伸ばす者はいない。
おもむろに、イカの沖漬けの皿が回ってきた。おー、これだよコレ。
札幌に単身赴任中の卓司が、土産でわざわざ持ってきたのだ。
ピッチ上で卓司が見せた、自分がくるくる回るフェイントには驚かされたが、
焼肉店のテーブルでミニまな板とミニ包丁で、持ち込みのイカを刻む大胆な
パフォーマンスに驚かされた。意外性こそが卓司の身上なのだ。

二次会はまんだの馴染みのジャズ喫茶へ。“高倉健”ばりの角刈りが
相変わらずのトレードマークだが、まんだが「ジャズ」を聴くとは。
しかし、木のスピーカーから流れてくるサックスの音色は温かく心地よい。
ここのマスターは、片桐が20代に働いていた「あっぷるこあ」のオーナーと
知り合いだった。20代の大半をジャズを聴きながらカウンターの中で過ごした
片桐が、今はゼネコンの一級建築士になった。

さあ、三次会行こうぜ。
小倉の馴染みのキャバクラへ8人で繰り出すが、満席(涙)。。。
じゃあフィリピンにするか、韓国がいいかといろいろ意見が出たが
まとまらず、誰からともなく、旭町のカラオケボックスにぞろぞろ入った。
BOXに中年オヤジ8人という空間はオレ自身、新鮮な光景だった。


サッカー部の“熱唱King” 広巳の『19のままさ』で、カラオケが始まる。
ネパールから持ち帰り伊那谷に赤そばを根付かせたその情熱を
メロディに乗せた歌声は聞く者の魂を揺さぶらずにはおかない。

「♪夏が終わる 頃にはもう二人 
  すり切れたスニーカーはいて 恋を追いかけてた♪」



すかさず、柿木の『Happy man』が続く。
サッカーでは戦術でよくぶつかったものだが、歌の趣味は似ている。


「♪世界中のインチキにAi Ai Ai... 
  Swingin' my soul, soul yeah!! 」


 

『ガンダーラ』のイントロが流れ、なるとがマイクを持つと皆どよめいた。
血気さかんな熱いオトコだったが、今では温厚なパパなのだ。


「♪Gandhara,Gandhara  愛の国 Gandhara♪」




締めは満を持して、小倉が歌う 『Loveマシーン』。
馴染みのキャバクラ嬢に今夜会えなかった想いをこの1曲にぶつける。


「♪熱けりゃ 冷ませばいい(フーフー)
 淋しけりゃ EVERY BODY BODY BODY
  誰にも わからない(fu-fu-)  恋愛って 
 いつ火がつくのか DYNAMITE   恋は DYNAMITE♪」





いつしかそれは8人の大合唱へとなっていた。


そう、おじさんたちは、心に火が燃えるようなひと時がほしいのだ。
地元にいる5人は、今度一緒にフィリピンパブへ行くぞ、リベンジだ、と
誓い合っていた。

高3のインター杯南信予選3回戦 東海第三戦。
0対0のまま、延長でも無得点のままPK戦になった。
そして5人では勝敗が決せず、サドンデスへ。
9人目で俺たちの県大会進出がなくなった。
今でも、PK戦の時の胃のあたりが重くなるあの感覚を
みんなが体の中に覚えている。


オレたちの最後の試合、前半後半延長と1点も許さず
ゴールを守ったゴールキーパー堀はもういない。

毎日の練習に全力で臨んでいたキャプテンは、シュート練習での
セービングでゴールポストに顔面を強打し、前歯4本を折った。

いつまでも 忘れない 

今でも 目をこうして

 閉じれば19のままさ♫
でも僕ら もう二度と  

あの日のきらめき
この腕に取り戻せない​♫





どれだけ久しぶりに顔をあわせても、会った瞬間に、

そして記憶の中で、


そうさ俺たちはあの頃の、
18のままさ​            
       

 2013/1/15    Tadashi Aruga​




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